レモンパイ


何のたとえが一番しっくりくるのか。
津波か、雷か、というくらいここ数ヶ月は
過ぎるのが早かった。



新参者の偵察を、とこの町を牛耳っているような野良猫たちが
私をじっとみている。
角を曲がった途端に上からぴょんとおりてきて驚かしてくれたりする。
ひゃっ、と驚いたのも束の間、
やれやれ、私を試しているのだね。
と、私はうれしくなる。

大学から10年住んでいた北海道を離れて、大都会にやってきたのだ。




段ボールとガムテープのにおいがする地獄部屋から少し開放され、
前居住地の隣町のろうそくやと雑貨屋の店主からいただいた、巨大ろうそくと
ドライフラワーのリースを飾り、北海道の思い出に浸っている。
ろうそくは、日々の会話を通して灯してほしいと思った、いうオリジナルのものだそうで、
本当にうれしい頂き物だ。
淡いベージュに透明のブロックが沢山入ったでっかいろうそく。炎が楽しみ。



新調した包丁とまな板が届くまでは毎日外食で、心と体のバランスが
崩れかけていた。
最近ようやく新しい気持ちで自炊を始めたところ。
粋な料理屋さんの店主が餞別にとくれた自家製お味噌でのおみそ汁が、いまは癒しのアイテムの
一つになっている。
その良質なものを心から愛している店主が教えてくださった器のお店や
小料理屋さんにいこう、とその日を首を長くして楽しみにしている。
早くお便り出さなくては。


毎日同じ時間に起床して、職場から家までのたった数分の往復をよるべなく歩いている。
濁ってても空が青いときはベランダをあけているけれども、そんな日は長くは続かず
私がここにやってきてから、何回雨の日があっただろうか。

とにかくここでは物思いにふけることが多い、私は一人が好きなのに、いつだって、淋しいのである。


なんとなくこの野良猫たちのよう。


早くこの町での生活に慣れなくては。